故事ことわざで”当たってくだけろ”とよく云います。成功するかどうかはわからないが、とにかく思いきってやってみよということ。当たってみて砕けてしまっては元も子もないが、それだけ決死の覚悟でのぞめば成功する可能性も高くなるわけですから、”やるだけやってみろ”ということであります。
ふと、こんなことを思ったのは、中学生の時のことを思い出したからであります。生徒全員が何らかの部活に入ることが義務づけられており、柔道部に入ったわけです。多くの少年は梶原一騎さん原作の『巨人の星』に感動し、野球を目指す者が多かったのですが、私は何故か柔道に興味が出てしまったわけであります。
当時、「週刊少年キング」という漫画雑誌があり、これもまた梶原一騎さん原作の『柔道一直線』が1967年(昭和42年)より連載されました。私が小学六年生の時でした。その後、テレビでの放映もあり、桜木健一さんが主役をされ、共演に吉沢京子さんが出ておられました。何気に吉沢京子さんのプチファンでもありました。この『柔道一直線』は漫画ですので、想像もつかない技を出します。主人公の一条直也の父親は1964年(昭和39年)の東京五輪の柔道で敗れ、命を落としました。直也は車周作の指導のもと、「地獄車」「海老車」などの技を駆使して外国人柔道家や日本人のライバルたちと戦う、という内容でした。こんな漫画やテレビの影響で、柔道をやってみたいと思うようになったわけです。
我が柔道部顧問「K先生」は、教育に対し非常に真面目で、熱心で、しかも厳格で、頑固一徹のようなタイプの先生でした。とにかく練習が厳しくて、どうしようもありませんでした。柔道を始める前に、準備運動や柔軟体操が半端なく長く、辛く、柔道の練習になった途端、バテバテで力が出ませんでした。しかし、厳しい練習を乗り越えて、己の技に磨きをかけ、日々、励んでおりました。
私たちの住んでいた西尾市は中学が六校ありましたが、柔道部は三校しかありませんでした。柔道部が少ないことは、非常に恵まれた環境であったわけです。学校対抗の練習試合でも見慣れた連中ばかりでしたので、ある程度、得意技などインプットができました。
そして、中学二年の時、西尾市の大会に出場することとなりました。試合は個人戦と団体戦があり、団体戦はコロ負けをしてしまいました。しかし、三校しかありませんでしたので入賞はしました。そして、個人戦はトーナメント方式で行ったため、何故か三位決定戦まで残ってしまいました。三位に入賞すれば表彰状と副賞がもらえることで、張り切って試合に臨みました。試合時間は四分と延長二分だったと思うのですが、とにかく、この決定戦の四分が長くて、長くて、どうしようもありませんでした。柔道とは技を掛けたら返されてしまうという非常に難しい所があります。いわゆる”もろ刃の剣”であります。柔道の技が決まる時は、素晴らしい判断力と攻撃力があれば、一瞬で仕留めることができます。しかし、技に鋭さを欠いたり、己の心が躊躇すると必ず技は失敗するものであります。
試合が始まり一~二分は”引き手”や”担ぎ手”の攻防で、足技を掛けたり、けん制したり、相手の様子を窺いながら間隙を縫い攻め込むわけです。試合時間が残りあと一分となると、どうしても心に焦りが出てしまい技を掛けないと積極性の欠如で判定負けを喫する可能性があります。押したり引いたりして、とうとう最後の一分が過ぎ、エイヤーで技を掛けました。しかし、逆を取られてジ・エンド・・・。技ありを取られて負けてしまいました。非常に残念な結果に終わったわけですが、武道の精神に則り、正々堂々と技を掛け対戦をしました。結果としては敗れ、第四位に終わりました。ことわざの”当たって砕けろ”ですが、本当に砕けてしまいました。しかし、このことが今後の自分の人生で良い教訓となったわけです。
以前ご紹介したように、入社二年目に年間1億2千万円の損失を会社に与えてしまいました。そして、どうにかして会社に貢献をしようと常に考えてきたわけです。五~六年ほど経った頃より、徐々に仕事が面白くなってきたとご紹介させていただきました。仕事には、精神面の鍛錬が必要です。先ず、開き直り、心を開き、思考・言動・行動を変えなければなりません。そして、すべてに感謝することが極めて重要であると申し上げました。
そんなある日、本業の薬の販売を促進することでは無く、薬以外の製品で会社の利益を出すために、付加価値のある企画がスタートしました。会社とは縁もゆかりも無い製品でした。某会社の「シャンプーとコンディショナー」の販売促進キャンペーンが始まったわけであります。価格は一本(1L)1,500円でした。セットで3,000円となります。シャンプーを買っていただくには、製品の質・量・価格が受け入れられるかどうかで決まります。それと、顧客との信頼関係ですべては決まります。そして、このキャンペーンは一年間続きました。通常の業務に加え、このキャンペーンが日常の業務に大きくのしかかってきました。キャンペーン対象となる社員は医療用の販売部隊の100名程でした。とにかく、その中で必ず一位を取ってやろうと思いました。
会社の利益は医療用医薬品の場合1%が目安になります。医薬品には薬価という価格がついております。いわゆる厚労省が二年に一度、納入価格を市場調査し乖離率を算出し、新薬価を決めるわけであります。薬価はあくまでも薬の定価と考えるべきです。薬価を基準に仕入価格と販売価格の差額が利益となります。いくら販売しても、たかが1%の利益しか生まれないのはさびしい限りでした。そこで、先般の1億2千万円の売り上げに対する利益は120万円となります。それを何とか挽回するためには、どんな事でも会社に貢献し利益を出さなくてはなりません。シャンプー・コンディショナーはそれぞれ一本500円の利益がありました。ということは、2,400本売れば120万円の利益を創出できるわけです。それで、販売目標を2,400本としました。”当たって砕けろ”ではないですが、”ダメ元”でとにかく顧客や友人など幅広く宣伝し購入をしていただきました。
病院の先生や薬剤師、事務職員など、いろんな方に買っていただきました。そして、ある日、どこから聞かれたのか分かりませんが、大病院の検査技師の先生よりお話がありました。奥様がエステサロンを経営されており製品が良ければ使用したいとおっしゃいました。エステとなると使用量は期待できると思いサンプルも自前でサービスをしました。すると、以外と評判もよく継続的に大量に使用していただけることとなりました。毎週ケース単位で納品をさせていただきました。しかし、まさかこんな展開になるとは思いもよりませんでした。一年経ち目標の2,400本には届きませんでしたが、約2,000本を販売できました。エステという思わぬ良縁に触れ予想以上の売り上げになり、栄えある一等賞をいただきました。会社の利益も100万円ほど返すことができ、自分なりに満足できたわけです。納品となると、結構重労働で大変でした。確か1ケースは半ダースだったと記憶しており、重さは10㎏以上あったと思います。年間2,000本というのは月平均167本、一日で換算すると8本強となります(稼働日1ヶ月20日)。毎日1ケース強を運んだ計算となります。まあ、どんな仕事であれ、与えられたミッションを確実に実施し、ナンバーワンを獲得できたのですから、申し分ないと自分に言い聞かせ、次は本業の医薬品でナンバーワンを目指そうという決意が生まれました。
営業の内容は別として、この成功の陰には、日ごろのたゆまぬ努力が必要です。先ず、自分で使ってみる。そして、製品を正しく理解する。その上で販売計画を立て、費用対効果を考え、そして、現場では、市場調査すなわち家族構成を調べます。先ず、年頃の女性や奥様がいらっしゃる方から優先的にアプローチを掛けます。そして、次のステップでは、顧客を選ばないように万遍なくアプローチを掛けます。そして、自信を持ち、製品の特徴、使用感や価格面でのメリットを訴求し、値ごろ感を持っていただくように導きます。毎度ありがとうございます・・・クロージングとなるわけであります。
営業というのは、至ってシンプルであります。自分自身の心を開き、理解していただき、相手のことも理解し、信頼関係が構築できれば、このような、日常雑貨の製品は、いとも簡単に売れるものです。しかし、どうしても売れない人もいます。それは、営業の基本、すなわち、当たり前のことを、当たり前に熟すことができるかどうか?また、それを継続できるかどうか?また、常に平常心でいられるかどうか?また、最後までやり遂げられるかどうか?また、プライドを持って対応できるかどうか?そして、すべてに対し感謝できるかどうか?・・・であります。そして、”当たって砕けろ”ダメ元の精神でぶつかってゆけば、自ずと結果は後からついてくると私は信じております。
法華経の経本の中に、『是好良薬』とあります。この法華経は「人間のあらゆる問題を解決してくれる薬」と説かれております。また、寿量品の中に『一心欲見佛』とありますが、これは「一心に仏を信じなさい」という意味であります。そして、『不自惜身命』とは、「仏を信じ命を惜しまず、一心に合掌しなさい」という意味であります。この尊い教えの核心は、「一心に仏を見たてまつらんとして”南無妙法蓮華経”と唱える信心と、身・命・財を惜しまぬ修行をしなさい」ということであります。
法公先生は、生涯お釈迦様の説かれた”因果の二法”原理・原則・哲理に軸足を置き、三徳を積み、広宣流布においては、大車輪の如く活躍をされました。これこそまさに”すばらしき人生”を体験されたのではないでしょうか。これも偏に信者の皆様、並びに教会関係者の皆様のお蔭と、唯々感謝を致す次第でございます。
合 掌